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海鳴り
第1章 訪問者
「…っ…」


律子の呼吸が一瞬止まった。


「……律子先生…」


青年がほっとした表情で口を開いた。


「武(タケシ)君…」


あぁ…


胸の奧が軋(キシ)む。


「あら、あっさりと負けちゃったわ」


坂本の声に我に返った律子は、動揺を悟られないように落ち着いて答えた。


「えぇ、そのようです。 教え子の相沢武君です」


律子の言葉に満足げに微笑んだ坂本は武を見た。


「相沢さんごゆっくり。それでは私はこれで」

「あ、ありがとうございます。お手数をお掛けしました」


武は深々と頭をさげ、事務室に戻る坂本を見送った。


「先生、お久しぶりです」

「本当に…」

「………」

「いくつになったの?」

「はい、31です」

「そう…、すっかり大人になっちゃって…。
先生はすっかりおばさんになったでしょう?」


律子が微笑むと武も頬を緩ませた。


「名字が変わったんですね、でも先生は変わってません」

「あはは…、お世辞が言えるのね」

「ハハ…、覚えててくれて嬉しいです。先生ってすごいんですね、だって20年以上経つんですよ」


武は嬉しそうに笑った。

よく似てる…
あの人に




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