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海鳴り
第1章 訪問者
「そりゃあそうよ。それこそが教師というものですからね」
律子は大袈裟におどけて見せた。
「本当に懐かしいわ……、ご両親はお元気?」
なるべく自然に、当然のように問いかける律子に、武は少し間をおいてから口を開いた。
「あれから母は…また家を出て行きました…、でも…」
「えっ?」
「……あ、これ」
武は律子の疑問には答えず、持っていた小さな紙袋を差し出した。
「これを渡したくて…」
「なにかしら?」
「開けてみて下さい」
律子は紙袋を受け取り、中から和風ちりめんの小さな布包みをを取り出して手のひらに乗せた。
武に一度目配せをしてからその結び目をほどく。
「…これは…」
律子の目の前に現れたのは、サザエの貝殻だった。
貝殻のツノが折れた痕がある。
あの貝殻だ…
香る筈のない磯の香りが、胸の奧深くに沈めていた記憶の中から蘇る。
「『律子』って書かれた木箱に入っていた筈なんですけど、僕が見つけた時には壊れてしまっていて…」
「えっ?」
木箱
見つけた時
武の言葉がうまく理解できない。
「父は……七年前に亡くなりました」
「…っ…」
「転覆した船だけが見つかって…その船からそれが…」
律子は大袈裟におどけて見せた。
「本当に懐かしいわ……、ご両親はお元気?」
なるべく自然に、当然のように問いかける律子に、武は少し間をおいてから口を開いた。
「あれから母は…また家を出て行きました…、でも…」
「えっ?」
「……あ、これ」
武は律子の疑問には答えず、持っていた小さな紙袋を差し出した。
「これを渡したくて…」
「なにかしら?」
「開けてみて下さい」
律子は紙袋を受け取り、中から和風ちりめんの小さな布包みをを取り出して手のひらに乗せた。
武に一度目配せをしてからその結び目をほどく。
「…これは…」
律子の目の前に現れたのは、サザエの貝殻だった。
貝殻のツノが折れた痕がある。
あの貝殻だ…
香る筈のない磯の香りが、胸の奧深くに沈めていた記憶の中から蘇る。
「『律子』って書かれた木箱に入っていた筈なんですけど、僕が見つけた時には壊れてしまっていて…」
「えっ?」
木箱
見つけた時
武の言葉がうまく理解できない。
「父は……七年前に亡くなりました」
「…っ…」
「転覆した船だけが見つかって…その船からそれが…」