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海鳴り
第5章 うねり
「うちの父ちゃんも大丈夫だよ、直也兄ちゃんに網の手入れをやらせるって言ってたから」

「はい、了解しました」


律子は笑顔で頷いた。

あれから相沢に会う事はなかった。

これでいい、間違っていないのだと自分に言い聞かせながらも、なぜか夜が長く切ない。

教師として過ごす充実した時間と、寝入るまでの熱く疼く欲望の境目はいつもため息で、閉じた目の中に浮かんでくるのは、あの夜の相沢の視線と靴紐を結んだ指だった。

律子は拒絶しながら求めていた。
そんな自分が嫌だった。

毎朝迎えに来てくれるかわいい教え子達は、自分を教師へと引き戻してくれる大切な存在だった。


情けない…
しっかりしなければ


「ほら見て、今日も空がきれい」

「ホントだー」

「秋が来るんだよ」

「あ、校長先生だ」

「咲ちゃん達もいるよ」


駆け出す子供達の背中で揺れるランドセルを見ながら、律子は今日を無事切り抜けて、落ち着かない気持ちにケリをつけよう、と心に決めた。


あり得ない
あんな男を好きだなんて


「校長先生、おはようございます」


「おはようございます。
すっかり子供達の人気者ですね」


「ついて行くのに精一杯で」

「あはは、先生はまだまだお若いんですよ。今日も一日頑張りましょう」

「はいっ」


律子は弾みをつけて校門をくぐった。





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