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海鳴り
第1章 訪問者
背中に汗が滲む。

律子はドクンドクンと鳴り響く重い鼓動に耐えきれず、胸を押さえてゆっくりと屈み込んだ。


「律子先生…、大丈夫ですか?」


武がしゃがんで律子の肩に手を置いた。


「……大丈夫、最近ちょっと貧血ぎみで…」

「すみません。僕が急に……」

「いいえ、あなたのせいじゃないのよ…」


律子は呼吸を整えてゆっくりと立ち上がった。


「武君、もしよかったらそのお話、もう少し聞かせてもらってもいいかしら?」

「はい」


聞いておかなければならない


律子は武に断って一度職員室に戻った。

デスクを手早く片付けてバッグを掴み、校長や同僚、事務室の坂本に挨拶をして玄関に戻ってきた。


「少し歩くけど、静かなレストランがあるの。
時間は大丈夫?」

「大丈夫です」

「よかった、行きましょう」


二人が外に出た時には、明るかった空に雲が低く垂れ込め、辺りは薄暗くなっていた。

風が紙くずを空中に舞い上げた。


「やっぱり春の嵐ってやつだわ…」

「はい、夜にはもっと風が強くなりますね」


校門を出て並んで歩きながら、律子は武から受け取った貝殻を取り出してそっと耳に押し当てた。



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