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海鳴り
第5章 うねり
「あぁ」


相沢が頷いた。


「お友達に…」

「ん」

「お母さんは印を付けてくれないのかと聞かれてから、…自分で付けているようなんです」

「そうか」

「寂しいんじゃないでしょうか」

「………」

「起きた時に誰もいないのはきっと…まだ7才ですし…」


相沢は腕を組んだまま律子から目を離さず、ため息混じりに言った。


「漁に出かけてる時に、時々真理子から電話があるみたいだからいいんだ」

「えっ?」


真理子…


「子供の事は気になるらしい」


真理子…


突然目の前に現れた妻の存在に、その名前を呼ぶ相沢に、胸の奧からもやもやとどす黒い何かが沸き上がってきた。


「連絡が取れるなら、帰って来てもらったらどうですか」

「そんな気はねえな」


さっさと妻を取り戻して…


「武くんの為に、…真理子さんを迎えに行ったらいかがですか?」


そしたらこのまま

何も
何も…

考えなくてすむ


「ここを出て行くヤツを追ったりはしねえ」

「カッコつけてる場合じゃないと思いますけど」


律子の胸は重苦しく脈打ち、両手は膝の上で冷たく震えていた。



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