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海鳴り
第5章 うねり
「おかしいな」


相沢が身を乗り出して律子を覗き込むようにじっと見つめた。


「な、なんですか…」

「あんたが女に見える」

「…っ…─」


覗き込む相沢の目が一度伏せられ、冷やかで鋭い光に変わった。


「…あ、あなたなんか大嫌いです!」


律子は勢いよく立ち上がりグラスを手に取ると、相沢の顔に麦茶をぶちまけた。


「うっ…冷てぇ」

「失礼しますっ」


律子はグラスをテーブルに戻すと振り向きもせずにリビングを出た。

玄関でパンプスを引っ掛けつまずきそうになりながらバス通りを引き返す。


あんな人大嫌い

ぶっきらぼうで
威張りんぼで
自己ちゅーで

鈍感

鈍感

鈍感!


理解不能…



──あんたが女に見える



もうわからない

どうして冷静にやり過ごせないの?

逢う度におかしくなる

ケリをつけるつもりで来たのに…



美しい夕暮れに気付きもせず、俯きながら律子は歩いた。

気持ちは渦を巻き、グルグルと真ん中に吸い込まれていくばかりでそこから這い出せなかった。


「あら、律子先生」


はっとして顔をあげると前から春子が近づいてきた。



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