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海鳴り
第5章 うねり
──────
黒地に白で『アザミ』と描かれた看板がスポットライトで照らされている。
律子はその下にある赤い扉に取り付けられた金色の取っ手を握ると、小さな勇気を出してゆっくりと手前に引いた。
カランコロンと扉のベルが揺れ、静かなピアノの音色と「いらっしゃいませ」という落ち着いた女の声が心地よく耳に届いた。
「こんばんは」
「お一人様ですか?」
「はい」
五十過ぎかと思われる品の良い女性が、カウンターの内側から涼しげな目で律子を見つめ、「こちらへどうぞ」と片手を一番奥のカウンター席に向けた。
7席あるカウンターは空席だったが、5つに区切られたテーブル席のうち3つは埋まっていた。
照明は落ち着いた暖色系で、すぐに見渡せる広さの店内を柔らかく照らしだす。
おしぼりとお箸、煮物が盛られた小鉢のお通しをカウンターに並べ、さっきの女性が名刺を差し出した。
「ここでママをやらせて頂いている亜紀です、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
律子は名刺を受け取り、かしこまった挨拶を返した。
「何になさいます?」
「あの、グラスビールを」
「かしこまりました」
黒地に白で『アザミ』と描かれた看板がスポットライトで照らされている。
律子はその下にある赤い扉に取り付けられた金色の取っ手を握ると、小さな勇気を出してゆっくりと手前に引いた。
カランコロンと扉のベルが揺れ、静かなピアノの音色と「いらっしゃいませ」という落ち着いた女の声が心地よく耳に届いた。
「こんばんは」
「お一人様ですか?」
「はい」
五十過ぎかと思われる品の良い女性が、カウンターの内側から涼しげな目で律子を見つめ、「こちらへどうぞ」と片手を一番奥のカウンター席に向けた。
7席あるカウンターは空席だったが、5つに区切られたテーブル席のうち3つは埋まっていた。
照明は落ち着いた暖色系で、すぐに見渡せる広さの店内を柔らかく照らしだす。
おしぼりとお箸、煮物が盛られた小鉢のお通しをカウンターに並べ、さっきの女性が名刺を差し出した。
「ここでママをやらせて頂いている亜紀です、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
律子は名刺を受け取り、かしこまった挨拶を返した。
「何になさいます?」
「あの、グラスビールを」
「かしこまりました」