この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
海鳴り
第5章 うねり
亜紀の声に直也が驚いて振り返った。
「親方…、えっ、なんで?」
律子は前を向いたまま固まり、手にしたグラスだけが小刻みに震えだした。
直也の言葉には耳をかさず、相沢は律子がびしょ濡れにした筈の黒いシャツ姿で、店内を探るようにぐるっと見渡した。
「………」
「直也、お前は帰れ、明日は船を出すぞ」
低い声が有無をも言わさぬ響きで律子の耳にも届く。
「わかってます、でも俺はいつも…、それより親方、どうしてまだ起きてるんですか?」
「うるせぇ、帰ってさっさと寝ろっ」
「直也…」
亜紀が直也に目配せして小さく頷いた。
「はい、帰って寝ます、…親方、なんかあったんすか?」
「直也」
亜紀が軽く直也を睨んだ。
「はい…」
腕組みをして扉の前に立っている相沢に軽く会釈をして、「親方、おやすみなさい」と言い残し直也は店を出て行った。
「亜紀さん、俺ビール」
「はい」
亜紀は微笑みビンビールとグラスを入口近くのカウンターに置いた。
手酌だと決めているのか相沢が自らグラスに注ぐ姿をよそに、亜紀は箸やお通しを並べる。
「………」
律子は相沢を見る事が出来ずにいた。
躰は動かせないのに、激しい胸の鼓動はピアノの音をかき消していた。
いちばん会いたくない人物に出会した。
「親方…、えっ、なんで?」
律子は前を向いたまま固まり、手にしたグラスだけが小刻みに震えだした。
直也の言葉には耳をかさず、相沢は律子がびしょ濡れにした筈の黒いシャツ姿で、店内を探るようにぐるっと見渡した。
「………」
「直也、お前は帰れ、明日は船を出すぞ」
低い声が有無をも言わさぬ響きで律子の耳にも届く。
「わかってます、でも俺はいつも…、それより親方、どうしてまだ起きてるんですか?」
「うるせぇ、帰ってさっさと寝ろっ」
「直也…」
亜紀が直也に目配せして小さく頷いた。
「はい、帰って寝ます、…親方、なんかあったんすか?」
「直也」
亜紀が軽く直也を睨んだ。
「はい…」
腕組みをして扉の前に立っている相沢に軽く会釈をして、「親方、おやすみなさい」と言い残し直也は店を出て行った。
「亜紀さん、俺ビール」
「はい」
亜紀は微笑みビンビールとグラスを入口近くのカウンターに置いた。
手酌だと決めているのか相沢が自らグラスに注ぐ姿をよそに、亜紀は箸やお通しを並べる。
「………」
律子は相沢を見る事が出来ずにいた。
躰は動かせないのに、激しい胸の鼓動はピアノの音をかき消していた。
いちばん会いたくない人物に出会した。