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海鳴り
第5章 うねり
「いえ、結構です、自分で…」


律子は慌てて財布を取り出した。


「いいんですよ、怖い思いをさせてしまったお詫びです。お代は頂きません……今度はゆっくりいらしてくださいね」

「でも…」

「亜紀さんすまねえ」

「こちらこそ助かったわ」

「行くぞ」


相沢が律子の腕を引っ張っりながら扉を開けた。


「あ、あの、ごちそうさまでした」

「ありがとうございました、おやすみなさい」


亜紀が優しく微笑んだ。








律子は相沢の背中を見つめながら歩いた。


───あら、今夜で何度めかしら、カズさん、まだ人捜し?



相沢の5歩後ろを黙って歩き、相沢が空を見上げると同じように星を探した。


「………」


いろんな事があったのに、何も話す事がなかった。

黙っていたかった。

空気が澄んでいるせいか星が美しく瞬き、律子はそこに吸い込まれていくような錯覚を覚えながら歩く。

通りに出て右に曲がると道はさらに暗くなり、空が広く感じられる。

満天の星空。


きれい…


星空の中でカシオペア座の点をたどり、ジグザグに線を描きながら歩いた。


ドンッ…


ぶつかって立ち止まる。


「…っ、ごめんなさい」

相沢の背中だった。




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