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海鳴り
第6章 海鳴り
「……」


相沢が一人で寝込んでいる事を思うと胸が痛んだ。
急いで自宅に向かい、玄関で靴を脱ぎ捨てた。

書類棚の中から名簿を取り出し、相沢 武 の名前を見つけると電話の受話器を握った。


「………」


呼び出し音を10回数えて受話器を置き、もう一度かけ直す。


「………」


律子は時計を見ながら受話器を戻した。

夕飯はどうするのだろうか…

熱は…

でも


律子は余計な事をしたらぬかるみにはまってしまうと自分に言い聞かせ、停電になる前に風呂に入ってしまおうと頭を切り替えた。

躰を洗っている間も、髪を乾かし、食事や片付けやを済ませていても、律子は落ち着かなかった。


「もう一度だけ…」


律子は受話器を握りしめた。

呼び出し音を7つ数えた時、「…はい」と相沢の声が聞こえた。

弱々しい声。


「っ…」

「…もしもし…」


息遣いは荒く、張りのない声だった。



ガチャ…



何も言えずに律子は受話器を置いた。




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