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海鳴り
第6章 海鳴り
相沢の家の前に立った時、律子はずぶ濡れでガタガタと震えていた。

髪から落ちる雫がコートに滲みて、ジーンズは膝から下が絞れる程になってしまっていた。


ピンポーン…


震える指でチャイムを押してみる。


「………」


波の砕け散る音がすぐそばで聞こえる。

海が暴れだした。

黒い空を見上げれば、電線は大きく揺れ、外灯の明かりが横殴りの雨の線をはっきりと照らし出している。

目に入ってくる雨粒を濡れたコートの袖口でぬぐいながら、律子は待ちきれずに引戸を開けてみた。


「………」


ドアがすんなりと開いた。


よかった…


吹き込んでくる雨を遮ってドアを閉め、鍵を掛ける。


「……こんばんは」


返事がない。

律子は心配になり、急いでスニーカーと靴下を脱ぎ、コートを壁のフックに掛けた。

ジーンズの裾を折り曲げ、足跡を付けながら廊下を歩き、薄く明かりが漏れるリビングのドアを開けようとした。


「っ…」

「……」


ドアを開けたのは相沢だった。




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