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インセスト・タブー
第5章 おのが癒しを求めて他が苦しみを生む
と、ぐら、と視界が揺れ、足もとがふらついた。

「…エオレ様!」
少女が肩を支える。その手を、反射的に振り払った。

「あ……」
短く呟いた少女に、あたしははっとする。

「あ…ごめんなさい、大丈夫よ…一人で歩けるわ」
取り繕うように言うと、体勢を立て直す。早くその場を離れたいと、踏み出そうとしたその時。

「まだ過去を…引きずられているのですね」
少女は言った。あたしはピタリと動きを止め、見開いた目で少女を凝視する。

「エリザーベト様とは今でも…絶てていないのですか?」
彼女は確かにそう言った。とどめの言葉を、はっきりと。何の感情か、わなわなと――あたしの唇、そして肩が震えてきた。

「あたしの…何を知ってるの?」
驚愕のまなこを向けている。

「多分、すべてです」
少女が答えた。

一時の沈黙。そしてあたしはそのまま、歩き出していた。混乱した頭で、どこへ行くでもなく、ただ歩を進める。

早足になり、やがて走りだし――殿下とのお約束も忘れて邸を飛び出していた。

彼女は何?誰なの?ほぼ初対面のはずなのに、どうしてカレル以外の誰にも話していないことを、あたしの過去を知ってるの?


どうして…泣きそうな顔をしてたの?
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