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インセスト・タブー
第6章 苦しみから逃れるには勇気を以て立ち向かえ
東の空が白んできた。隣には、まだ少女がいた。あたしは立ち上がり、邸の方を見る。邸の辺りはまだ暗く、空との境界がぼやけていた。
ずっと出たかった邸。今まで出られなかったのは、“母”を捨てきれなかったから。逃れたかったけれど、彼女を一人にすることができなかった。
何があったのか詳しくは知らないが…彼女には辛く、悲しく、残酷な過去があると聞いている。その後に生を受けたあたしは、彼女にとって心の支えであり希望だった。
それがわかっていたから、彼女を完全に突き放せなかった。再び彼女を孤独と絶望の淵に立たせることは、ためらわれたのだ。
「女性の…あたしを男性として意識する目が、以前から苦手だった」
無表情のまま、ぽつりと言う。少女は、あたしの手を見つめていた。
「男性として意識するということは…ひいては性の対象として意識するということに思えたから」
そしてそれが、あたし自身にも性を意識させた。…自分の手が震えていることに、あたしは気づいていない。
「“逃げ続けることはできない”…わかってる。わかってた。変わらなくちゃって、ずっと思ってた。…だけど、できないでいるの」
きっと…怖いから。
少女も静かに立ち上がる。
「私は」
少女が言った。振り返ると、目が合う。少女は笑み、背を向けた。
「エオレ様を救う剣は持っていませんが…傷ついたエオレ様を癒し、剣を持つエオレ様の手を支えるもろ手は――ここにあります」
そう言う少女の背中は、少し大きく見えた。
ずっと出たかった邸。今まで出られなかったのは、“母”を捨てきれなかったから。逃れたかったけれど、彼女を一人にすることができなかった。
何があったのか詳しくは知らないが…彼女には辛く、悲しく、残酷な過去があると聞いている。その後に生を受けたあたしは、彼女にとって心の支えであり希望だった。
それがわかっていたから、彼女を完全に突き放せなかった。再び彼女を孤独と絶望の淵に立たせることは、ためらわれたのだ。
「女性の…あたしを男性として意識する目が、以前から苦手だった」
無表情のまま、ぽつりと言う。少女は、あたしの手を見つめていた。
「男性として意識するということは…ひいては性の対象として意識するということに思えたから」
そしてそれが、あたし自身にも性を意識させた。…自分の手が震えていることに、あたしは気づいていない。
「“逃げ続けることはできない”…わかってる。わかってた。変わらなくちゃって、ずっと思ってた。…だけど、できないでいるの」
きっと…怖いから。
少女も静かに立ち上がる。
「私は」
少女が言った。振り返ると、目が合う。少女は笑み、背を向けた。
「エオレ様を救う剣は持っていませんが…傷ついたエオレ様を癒し、剣を持つエオレ様の手を支えるもろ手は――ここにあります」
そう言う少女の背中は、少し大きく見えた。