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インセスト・タブー
第7章 錯綜する想いは
「ゴーシュ様…ありが」


ばしり、と少女の頬が叩かれた。


あたしはぎょっとしてゴーシュを見る。眉を寄せ、少女を見下ろしていた。あたしに一歩遅れて、少女も見開いた目をゴーシュに向ける。

「わかっている。これもあいつの仕業なのだろう。知っていた、ずっと。あいつの、私への感情も。あいつは使用人としては優秀だし目をつぶってきたが、先ほど暇を出した。…だが」
ゴーシュが少女の肩をつかみ、少女の目を見つめた。

「…なぜお前も言いなりになっている。なぜ私に言わない。なぜ、こんなことを…」
そう言ったゴーシュの肩は、震えていた。

「こんなことをさせるために、お前に宿下がりを命じたのではない…。自由にさせると…言った、のに…っ!」

ランプの柔らかな明かりが、窓からこぼれている。ゴーシュの金髪を、オレンジの混じった暖かな金色に照らしていた。

“宿下がり”…。酒場によく行くようになってから、ちらと耳にし、あたしも知っていたが…少女は二年前、ヴァーサ家から暇を出されていたらしい。

どうやら少女は、ゴーシュに仕えている頃から同僚から嫌がらせを受けていたようだ。別の家へ仕えている今もそれは続いており、あたしがこの前目にしたのもその現場だった。

だが、驚いた。こんな苦しげなゴーシュを、初めて見た。同時に彼の、少女への想いにも気づいた。

あたしは、そっとその場を後にする。
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