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インセスト・タブー
第7章 錯綜する想いは
あたしが去った後。ゴーシュは少女の肩に置いた自分の手の甲に額を乗せ、かすれた声で呻いた。

「…なぜ、兄さんのもとへ行かない。お前はずっと行きたがっていたはずだ。早く行け…兄さんを助けられるのは、お前だけだ」

ゴーシュは、恐らくすべてを知っている唯一の人間だった。





あたしは自分の邸へ向かわず、王宮へと歩いていた。邸へ戻りたくないというのもあるが、その方角に、なんとなく胸騒ぎを覚えたのだ。

と、前から誰かが慌てて走ってくる。…様子がおかしい。不自然な姿勢だった。負傷しているのだろうか、足や肩を庇うようにしてこちらへ駆けてくる。

だんだん近づいてくるその人物に、あれ、と思った。あたしは自信なさげに、恐る恐る声をかける。

「アデム殿下…?」

あたしに気づいた相手は走るのをやめ、不審げにこちらを見た。伺うように、あたしへ歩み寄る。

「…エオレか?」
アデム殿下が、かすかな町明かりのもとに立ちいでた。その姿に、はっと息を飲んだ。

「殿下…!?」
あたしは駆け寄る。殿下の衣服は肩から胸にかけて切り裂かれ、肩を押さえる手は血に濡れている。
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