この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
インセスト・タブー
第8章 心のすぐ横を通りすぎていく
「余は、もはやどちらでもよいが…両親がそう望むのなら、男として生きるべきなのだろうな」
割りきったとも諦めたとも取れるお言葉の後、殿下は目をお伏せになる。穏やかな表情ではあったが、どこか物憂げだった。
そうか…。このお方が、人の痛みをご存じなのは。気遣い、労る心をお持ちなのは――これまでずっと、苦しまれてきたからだ。ご自身が心に傷を抱えているから、このお方は傷ついた者の心に触れることができるのだ。
「殿下」
静かに聞いていたあたしが、ゆっくりと口を開く。
ああ…見える。このお方にひれ伏す人々の姿が。国王すらも凌駕する、人民からの厚い畏敬の念が…ただ一人の指導者に注がれている。そんな図が、ありありと頭に浮かんでいた――
「ん」
「今すぐお決めになる必要はないのではないでしょうか」
殿下の丸いグリーンの目が、あたしを見つめた。
「どうありたいか、今はわからなくとも…あるいは、こうありたいと思う時がやってくるかもしれません。その時は殿下ご自身の意思を大切になさってください」
このお方なら、きっと優れた主になるだろう。あたしは確信している。
「もし、わたくしが殿下の臣下であったならば、例え殿下がどのようなお姿であったとしても――この身を捧げて尽くして参りたいと思います」
このお方のために、何かしたい。そう心から思った。
割りきったとも諦めたとも取れるお言葉の後、殿下は目をお伏せになる。穏やかな表情ではあったが、どこか物憂げだった。
そうか…。このお方が、人の痛みをご存じなのは。気遣い、労る心をお持ちなのは――これまでずっと、苦しまれてきたからだ。ご自身が心に傷を抱えているから、このお方は傷ついた者の心に触れることができるのだ。
「殿下」
静かに聞いていたあたしが、ゆっくりと口を開く。
ああ…見える。このお方にひれ伏す人々の姿が。国王すらも凌駕する、人民からの厚い畏敬の念が…ただ一人の指導者に注がれている。そんな図が、ありありと頭に浮かんでいた――
「ん」
「今すぐお決めになる必要はないのではないでしょうか」
殿下の丸いグリーンの目が、あたしを見つめた。
「どうありたいか、今はわからなくとも…あるいは、こうありたいと思う時がやってくるかもしれません。その時は殿下ご自身の意思を大切になさってください」
このお方なら、きっと優れた主になるだろう。あたしは確信している。
「もし、わたくしが殿下の臣下であったならば、例え殿下がどのようなお姿であったとしても――この身を捧げて尽くして参りたいと思います」
このお方のために、何かしたい。そう心から思った。