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インセスト・タブー
第8章 心のすぐ横を通りすぎていく
「余は、もはやどちらでもよいが…両親がそう望むのなら、男として生きるべきなのだろうな」
割りきったとも諦めたとも取れるお言葉の後、殿下は目をお伏せになる。穏やかな表情ではあったが、どこか物憂げだった。

そうか…。このお方が、人の痛みをご存じなのは。気遣い、労る心をお持ちなのは――これまでずっと、苦しまれてきたからだ。ご自身が心に傷を抱えているから、このお方は傷ついた者の心に触れることができるのだ。

「殿下」
静かに聞いていたあたしが、ゆっくりと口を開く。

ああ…見える。このお方にひれ伏す人々の姿が。国王すらも凌駕する、人民からの厚い畏敬の念が…ただ一人の指導者に注がれている。そんな図が、ありありと頭に浮かんでいた――

「ん」

「今すぐお決めになる必要はないのではないでしょうか」

殿下の丸いグリーンの目が、あたしを見つめた。

「どうありたいか、今はわからなくとも…あるいは、こうありたいと思う時がやってくるかもしれません。その時は殿下ご自身の意思を大切になさってください」

このお方なら、きっと優れた主になるだろう。あたしは確信している。

「もし、わたくしが殿下の臣下であったならば、例え殿下がどのようなお姿であったとしても――この身を捧げて尽くして参りたいと思います」

このお方のために、何かしたい。そう心から思った。
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