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インセスト・タブー
第8章 心のすぐ横を通りすぎていく
殿下は驚いたご様子で聞いておられたが、やがて、ふ、と口もとを緩められる。そうか、とただ仰った。

ほんの数分のやり取りだったが、心と心が繋がったような――一瞬だが、主従に似た信頼で通じ合ったような気がした。

「…さて。いつまでもここに世話になるわけには行かぬ。そろそろ発つとしよう」

「しかし、まだお身体の方が…」

「自分の邸にて休む。…大丈夫だ、護衛も付ける。安心せよ」
微笑を添え、穏やかに仰せの殿下。もう少しここで安静にしていかれた方が、と申し上げたいところだったが、邸宅までお送りすることにした。





邸へ戻り、エリザーベトの部屋を通りかかってふと足を止める。開け放たれた扉から見えたのは、エリザーベトと、側で給仕を行う女性数人。その中に、あの少女の姿があった。

…ここで働き始めたのね。

あたしはそのまま自室へ向かう。彼女と話す気はなかった。これからも声を掛けるつもりはない。エリザーベトの話し声を遠くで聞き、扉を閉めた。
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