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インセスト・タブー
第8章 心のすぐ横を通りすぎていく
「実は偶然、良い香りが手に入ったのでございますが――お試しになりませんか?」
と、女性は小瓶を取り出し、自身の胸の前にスッと差し出した。

「ふうん…」
エリザーベトは見つめた。小瓶に添えられた手。水を扱う仕事のはずだが、あかぎれたり乾燥したりはせず、指先まで美しい。

その奥に目を移すと、衣服の上からでもわかるくらいの豊満な胸。そして視線を上げれば、年齢を重ねても尚美しさを保つ、知的で穏やかな顔があった。

「そうね。試してみようかしら」
エリザーベトはその場で小瓶を受け取らず、あとでまた持ってくるよう言った。





先ほどの女性が、再びエリザーベトの部屋へ訪れた。食事を下げに来たのだ。一人きりなのは、エリザーベトの指示だった。コンコンコン、と扉をノックする。

…耳をそばだてるが、返事がない。

「…奥様?」
失礼します、と中へ入ると、誰もいない。

この部屋は日の光が射し込みにくく、昼間から明かりをつけるのが常だった。窓の方に目をやると、その上カーテンが閉められている。これでは室内が薄暗いはずだ。

などと考えていると、ふいに、背後に人の気配を感じた。
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