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混沌の館
第11章 愛の因子
 それを聞いた時、苦い記憶が蘇った。


 私は、久美との別れ際、避妊しない彼がもし子供が出来たとして、責任を取ってくれると思ったら大間違いだと忠告した。彼女はそれを、余計な事だと一蹴したが、図らずもその忠告が的中したのだ。



 久美がその男に妊娠を伝えると、その男は、『自分以外にも男が居るんじゃないのか?簡単に中出しさせる癖に、俺の子かどうか分からないのに責任は持てない』と言ったらしい。



 そんな扱を受けているのに、その男と別れられないでいる久美が哀れに思えた。



 そんな男のどこが好きなのだ?私の方が久美に優しく接するし、何よりも彼女を愛していたのに。



 私は、久美を哀れんだ。しかし、私も久美への想いをくすぶり続けさせていた。自分自身こそ哀れむべき存在なのだと嘲った。




 苦い表情の私へ、止めの一言が浴びせられた。


「今日、狸さんに会いたかったのは、お願いがあったからなんです」



 次に続く言葉は容易に予測できた。


「お金を貸してくれませんか?」

「何時までも無職ではいられないし、でも、妊娠したままじゃ就職できないから・・・」


「いくら必要なの?」





 私は、自嘲気味に口の端を歪めた。




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