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臭い手笛で出発進行
第1章 ほの臭い恋の始まり。

「うふふっ、女の車掌さんと話すのちょっと照れますか?」
「い、いえ……」

純粋にびっくりした。今まで約一年、挨拶と検札以外では全く話しかけて来なかった車掌さんが急に妙なことを言い出すので、定期を出す手は完全に止まってしまった。

「定期持ってるの分かりますから顔パスでもいいんですけど、それはそれで何だか寂しいなって」

車掌さんだって仕事はある種の接客業だし、他愛もない会話がしたいのだろう。でもそれは僕が望んでいる会話とは違う。うまく言葉を紡げないでいると、列車が急にガタっと揺れた。まあ、古い車両だからいつものことーと思って少し足に力を入れた瞬間ー

頭の真上を、ずしっと柔らかい感触が支配した。女性車掌さんの胸がそこにあった。だがもっと重要だったのは、車掌さんの胸の下、つまり僕の目と鼻のすぐ目の前にあの黒いホイッスルがあった事だった。

つぅーーん、もわっ、という感じで、唾の強烈に臭い匂いが僕の鼻腔を埋め尽くした。ものすごい勢いで股間も突っ張っていく。

「ごめんなさいっ!大丈夫ですか?」

慌てて、黒いショートヘアを振り乱して離れる女性車掌さん。僕はほとんど無意識のうちに、こう答えた。

「大丈夫……ですけど。……笛、めっちゃ臭いです」

女性車掌さんの表情も一瞬固まった。しかし少しするといつもの人懐っこい笑顔に戻る。なぜ?明らかに失礼な事を言ってしまったはずなのに……と、疑問と自省に襲われる僕に女性車掌さんはこう言った。

「気が合いそうですね。……笛と一緒に私のこともこれから教えてあげますよっ」

そしてすぐに、扉をパタンと閉めて車掌室に帰って行った。気が合いそう。その言葉の真意は何なのか。臭いホイッスルの匂いとその疑問がその日一日、僕の頭から抜けることはなかった。
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