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俺と彼女の理不尽な幽霊譚
第1章 女子高生と俺
口内のじゃりじゃりした塩と唾液を吐き出しつつ、顔を上げ痛む目をこじ開けた。居ない。
茫然と立ち尽くす俺の、濡れた全身から立ち上るアルコール臭、そしてカウンターに転がる空のワンカップと塩のビン。ようやく自分が酒と塩を浴びせかけられたのだと理解した頃には、店内に少女の姿は既に無く。
酒と塩の飛び散ったカウンターの端には、空の清酒と塩のビンと並んで三百円玉が置いてあった。
清酒のワンカップ、二百七十円(税込)。塩の小ビン、百八十円(税込)。
「……五十円、足んねぇんだけど」
「そりゃあまた過激なアピールされたもんだな、お前」
「いやいやいや、アピールじゃねえよアレ。紛れも無い暴行だって」
翌日。
再び大根と格闘していた俺の前に現れたのは、大学で同じゼミを専攻している大久保だった。コンビニの向かいにあるパチンコ屋でバイトしている奴は、こうして暇を見つけてはちょくちょく休憩を理由に顔を見せる。俺としては非常に不本意だが、相当気に入られているらしい。
「暴行ねぇ…美少女から受ける暴行、いや、調教か。あー、俺も受けてみてえ」
「黙れ脳内万年常春男」
何が調教だ、AVの見過ぎだこの野郎。
レジカウンターにだらしなく凭れかかるようにして、今さっき購入したばかりの缶コーヒー(ブラック)に口を付けケラケラと大久保が笑う。揺れる肩に合わせて大きめのピアスと長めの茶色い前髪が揺れる。今日も相変わらずチャラい格好だ。
「だってお前、すげぇ美人ちゃんだったんだろ?」
「見た目はな」
「しかも花の女子高生」
「だから見た目はな。というか大久保、その台詞親父クサイ」
「じゃあちょっとくらいの事気にすんなよ。女なんて顔が良けりゃ大概の事は許せるって、大事なのは顔とカラダ」
「お前今全世界の女敵に回したって自覚あんのか」
男として、いや人としてどうかと思う発言を公然と口にしやがった大久保の後頭部をおでんの出汁付きトングで殴る。しまった、また消毒し直さないと。