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エンドレスサマー
第6章 ステージ脇の暗い部屋
「博士、体育館に行こう」
「体育館? 体育館なんてここより寒いぞ。お前は大事な生徒だ。風邪なんかひかせられないだろ」
「いいじゃん、人間はそう簡単に風邪なんかひきません。それに今日は部活ないし、今体育館誰もいないでしょ」
「あんなだだっ広いところでどうするんだ?」
「広くないよ」
 美香はそう言うとクスクス笑った。
「仕方ないな。じゃあ行くか」
「早く行こう」
「……」
 美香は私を手招きすると教室を飛び出していった。私は美香の後を追った。
「わぁ、今ここには博士と私しかいないんだね」
 体育館に響く声で美香はそう言った。
「当り前だ」
 私の声も響いた。
「博士、こっち」
 美香は体育館の機械室に向かった。機械室とは、私の中学だけそう呼ぶところだ。つまり舞台の袖にあたるところ。
 どんな学校にも体育館はある。入学式や卒業式で使われるステージ。その脇には学校にもよるが、放送器具や式典のための演壇、校歌斉唱で使われるアップライトピアノなどが収められている部屋がある。その部屋。
「機械室に何かあるのか?」
 私は美香の背中にその言葉を投げた。美香は私の言葉には何の反応も見せずに、機械室に入っていった。機械室が放つ独特の匂いが鼻孔を通った。
「ここ」
 美香は私が機械室の入ると、私に向かってそう言った。
「ここ? ここってどういう意味だ?」
「エッチの場所」
「エッチの場所?」
 私は美香の言葉を繰り返した。」
「そう、エッチの場所」
「エッチ……」
 美香の言うエッチの意味がわかった。
「驚いた?」
「……」
 驚き? いや私にあるのは怒りだった。
「博士の顔怖いんだけど」
「……」
 自分でもわかった。怒りが自分の顔を固くしていることが。
「博士、ひょっとして怒っている?」
「……」
「怒っているの?」
「中学生がそんなことしていいわけないだろ」
 教師として真っ当な台詞が言えた。
「ふふふ」
「何笑ってんだ」
「だって博士の顔まじで怖いんだもん。先生みたい」
「当り前だ。僕は教師だ」
「ふふふ」
「笑うな。教師をからかうな」
「ふふふ。博士、一つ訊いていい?」
「何だ? 僕に何が訊きたい?」
「ふふふ。ふふふ、もしかしたら博士、私のことが好き?」
「……」
 生徒を好きになる教師なんかいるか!私にはそれが言えなかった。
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