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エンドレスサマー
第2章 秘め事のプロローグ
 スーパーに勤める時、私と妻の事情は一通り面接官に説明した。面接官は二人いて、明らかにその店の店長の表情は私を歓迎するものではなかったが、もう一人の面接担当者からは「アルバイトで三か月がんばってください」と言われた。私は、三か月妻の為だけに必死でがんばった。三か月後正社員として採用され、十年後には店長にまでなれた。そして来年からはこのスーパーのグループ会社の役員になる。私を取締役に推してくれたのは、その時の面接官だ。
 夏休み、私と妻そして娘三人で一週間道東・道北の新婚旅行(だいぶ遅れたが)に出かける。波乱万丈な人生であったが、ようやく人並みの幸せが手に入った。そんな思いを抱きながら、わたしはベッドの中で妻を抱き寄せた。
 妻はまだ三十一、若い匂いがまた私をそそる。ついさっき私は妻の中で果てた。
「宿は美香の好きなところを選べばいいよ。旅のプランだって美香に任せる」
「宿って言い方何だかおっさんくさくていやだわ。そんな言い方やめてよ」
「僕はもう十分おっさんだよ。もう言い方なんか気にする年じゃない」
「でもここはまだおっさんにならないでね」
「痛っ」
 妻の手が私の肉棒に伸びてきて、肉棒がぎゅっと握られた。
「大きくしてあげる、先生」
 小さくて甘ったるい妻の声。
「おい止せよ。美緒に聞かれたらどうするんだ」
 先生、それは私と妻の淫靡な世界だけで使われる言葉だ。普段妻は私を「あなた」と呼ぶ(娘の美緒の前ではお父さんになるのだが)。ちなみに娘は、私が教師だったことを知らない。隠しているわけではないが、私から積極的に娘に話すことでもない……ような気がする。
 娘ができたことを私と妻の実家に教えると、翌日双方の両親が申し合わせたようにやってきた。孫を抱いて可愛がり、私と妻には目もくれずに双方の両親は翌々日東北の小さな町に帰って行った。
 そして年に一度、私と妻の両親は孫の誕生日に北海道にやって来る。孫だけに土産を買ってきて、孫だけに小遣いを渡し、孫だけを可愛がって東北の小さな町に帰る。この世に私と妻など存在していないかのように、私と妻の両親は、私と妻を無視する。
 無視されて気分がいいわけないが、それでも孫を愛してくれるだけで幸せを感じることができる。多分、妻の美香もそう思っていることだろう。
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