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エンドレスサマー
第2章 秘め事のプロローグ
「私の小さかったころの秘密、先生に話していい?」
 妻がいきなりそう言った。
「秘密? それって数学の成績が悪かったことか? 痛っ!」
 肉棒が潰されるのではないかと思うくらいに握られた。女は男の軟体部分がどれだけデリケートなものなのかを知らない。
「意地悪」
「悪かったよ。で、美香の秘密って何?」
「聞きたい?」
「自分から言い出したんだぞ」
「聞きたい?」
「どうしても僕に聞きたいと言わせたいんだな」
「先生、聞きたい?」
「ああ聞きたいよ。僕は美香の秘密が聞きたい」
「じゃあ、教えてあげる。私ね……ふふふ」
「……」
 私は、妻のこういう小悪魔的なところが好きだ。できることならベッドの中ではずっと妻が小悪魔であることを願う。
 妻が小悪魔であってほしいからではないが、私は妻に仕事をさせなかった。つまり私の妻は、仕事の経験がない専業主婦ということになる。
 もちろん私には北海道に渡る前にも多少の蓄えはあった。多少の蓄えとは本当に多少なのだ。金なんてすぐに底をつく。多少に頼ることができる時間は短い。だからスーパーのバイトも私は必死に働いた。北海道までやって来て妻を働かせたなどと誰からも言われたくない。それは男としてのプライドであり、私の意地でもあった。
 私が働いている間、妻は家事だけでなく、通信制で高校の勉強を始めた。
 妻は決して勉強が好きな方ではないのだが、将来子供を儲けた時、子供の為に学ぶことを始めたのであった(これは妻の意志であった)。
 そして妻は見事に通信制の高校を卒業した。
「中学生の時の話じゃないの。中学生の時の秘密は先生とのことだけ」
「じゃあ、美香が小学生の時ってことなのか?」
「そう、私が小学生の時の秘密」
「どんな秘密なんだ?」
「先生が聞いたらきっとびっくりするわ」
「まぁそうなるだろうな。間違いなく美香の秘密を聞いたら僕はびっくりするさ」
「それから……多分先生怒るかな?」
「怒る? 僕が? おい、どういう秘密なんだ?」
「ふふふ」
 妻の笑い声が少し続いた。こういう笑いには慣れていないし、なんとなく不愉快な気分になる。
「おい、早く話してくれ。話さないならもう寝るぞ」
「ふふふ」
「何だよ。一体どうしたんだ?」
「私ね、ふふふ、小学二年生の時から小学四年の三学期まで、ずっといたずらされていたの。ふふふ」
 
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