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エンドレスサマー
第7章 犬のぬいぐるみ
Aが私の妻にしたいたずらは、ギョウチュウ検査の真似事だけではなかった。車の中に連れこまれなくても、妻はAに会うたび、体を触られたと言っている。
頭を撫でられたり、背中をさすられたり、妻の小さな肩を揉んだり、そのすべての手の動きに妻は違和感を覚えたそうだ。はっきり言って、気持ち悪い。ただそれを口にすることはなかった。いや、出来なかった。
もしAに向かって気持ち悪いなどと言ったら、Aは見たことのない化け物に変わるのではないかと、妻は思ったのだ。
化け物の正体を見てしまうと、家に帰れなくなる。お父さん、お母さんに会えなくなる、そういう恐怖を抱えながら妻は、Aが待っているその道を歩いた。
白い車が止まっていた。するとAがいつものようにニヤニヤ笑いながら妻を通せんぼするようにしゃがんだ。「美香ちゃん、こんにちは」Aがそう挨拶をした。「こんにちは」仕方なく妻はAにそう答えた。
頭を撫でられてもいい、背中をさすられてもいい、肩を揉まれても構わない。でも早く家に帰りたい。すぐ近くの自分の家に。
妻の願いはかなえられなかった。Aは妻にこう切り出したのだ。「お兄さんの家で飼っている犬が死んじゃったんだ。とても可愛い犬で毎日こうして抱いていたんだ」Aはそう言うと、小さな子犬を抱くような仕草を妻にして見せた。そしてAはこう続けた「美香ちゃんにお願いがあるんだ。今お兄さんは飼っていた犬がいなくなってとても寂しい。美香ちゃん、わかるでしょ?」妻はこくりと頷いた。「そこで美香ちゃんにしてほしいことがあるんだよ、お兄さんのお願いを聞いてくれるね」妻はまた頷いた。「美香ちゃん、僕が飼っていた犬のぬいぐるみになってくれないか?」Aが妻にそう言った。「ぬいぐるみ?」妻はAに訊ねる。「そう、ぬいぐるみ。ぬいぐるみだから美香ちゃんは動かなくていいんだ。僕の腕の中でじっとしていればいいんだ。難しくないだろ」Aはそう言ってにんまりと笑った。「うん」じっと我慢していればいい、そうすれば家に帰ることができる。妻はAの願いを嫌々承諾した。
平和で安全な住宅街、内職の白い車が止まっていてもその車は、平和で安全な住宅街の一部だ。だから車でやって来る男も不審者ではない。なぜならそこは平和で安全な住宅街だから。痴漢や子供にいたずらをするロリコンなんて平和で安全な住宅街にはいないのだ。
頭を撫でられたり、背中をさすられたり、妻の小さな肩を揉んだり、そのすべての手の動きに妻は違和感を覚えたそうだ。はっきり言って、気持ち悪い。ただそれを口にすることはなかった。いや、出来なかった。
もしAに向かって気持ち悪いなどと言ったら、Aは見たことのない化け物に変わるのではないかと、妻は思ったのだ。
化け物の正体を見てしまうと、家に帰れなくなる。お父さん、お母さんに会えなくなる、そういう恐怖を抱えながら妻は、Aが待っているその道を歩いた。
白い車が止まっていた。するとAがいつものようにニヤニヤ笑いながら妻を通せんぼするようにしゃがんだ。「美香ちゃん、こんにちは」Aがそう挨拶をした。「こんにちは」仕方なく妻はAにそう答えた。
頭を撫でられてもいい、背中をさすられてもいい、肩を揉まれても構わない。でも早く家に帰りたい。すぐ近くの自分の家に。
妻の願いはかなえられなかった。Aは妻にこう切り出したのだ。「お兄さんの家で飼っている犬が死んじゃったんだ。とても可愛い犬で毎日こうして抱いていたんだ」Aはそう言うと、小さな子犬を抱くような仕草を妻にして見せた。そしてAはこう続けた「美香ちゃんにお願いがあるんだ。今お兄さんは飼っていた犬がいなくなってとても寂しい。美香ちゃん、わかるでしょ?」妻はこくりと頷いた。「そこで美香ちゃんにしてほしいことがあるんだよ、お兄さんのお願いを聞いてくれるね」妻はまた頷いた。「美香ちゃん、僕が飼っていた犬のぬいぐるみになってくれないか?」Aが妻にそう言った。「ぬいぐるみ?」妻はAに訊ねる。「そう、ぬいぐるみ。ぬいぐるみだから美香ちゃんは動かなくていいんだ。僕の腕の中でじっとしていればいいんだ。難しくないだろ」Aはそう言ってにんまりと笑った。「うん」じっと我慢していればいい、そうすれば家に帰ることができる。妻はAの願いを嫌々承諾した。
平和で安全な住宅街、内職の白い車が止まっていてもその車は、平和で安全な住宅街の一部だ。だから車でやって来る男も不審者ではない。なぜならそこは平和で安全な住宅街だから。痴漢や子供にいたずらをするロリコンなんて平和で安全な住宅街にはいないのだ。