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エンドレスサマー
第9章 身体測定
突然だが、私の身長は百七十五㎝で体重は七十㎏。会社の検診では、太らないようにと、ここ二三年注意を受けている。妻は身長が百五十八㎝、体重は……四十八㎏(妻には申し訳ないがここに書く)。
妻は私にいつもこう言う「あと二㎝あれば百六十㎝なのに」と。二㎝なんてある意味誤差の範囲のような気がするが、百五十八と百六十。この二㎝の差は、妻にとっては異民族が乗り越えようとして乗り越えることができず、恨めし気に見上げた万里の長城と同じなのだ。どうやら身長を気にするのは男だけでないようだ。
自慢話で申し訳ないが、妻の体形は中学の時からさほど変わっていない。身長が数cm、体重も数㎏増えたくらいだ。髪型も中学時代から変わらないショートボブ。二十を越えたあたりから黒髪がアッシュブラウンに変わったが、当時(中学時代)の写真と今を見比べても容姿の変化は全くない。
困ったことに、妻は童顔だ。どう困るかと言うと、例えば娘を連れて三人で買い物に行く。三人でやって来た私たちを店員が見る。すると、店員が私に向ける目の中に戸惑いを感じるのだ。「まさかこの男性、ご主人じゃないわよね。じゃあ、娘と孫を連れてきたおじいちゃん? にしては若すぎるわ。どういう関係なのこの三人」こんな感じの目。まぁ、そう言う目には慣れたし、私としてはそれを楽しむ余裕もできてきた。今では十九年下の妻が私の自慢だ。
妻は体型を維持するために何か特別なことをしているわけではない。小食でもなければ大食いでもない。ジムに通ったこともないし、何か習い事をしているわけでもない。
妻は家を空けることがほとんどなかった。どうしてそうだったのか? 妻の告白を聞いて家を空けない理由がわかった。娘を守る。どんなことをしても守る。そういう決意のようなものがあったのだろう。
妻は知っている。絶対に安全な場所などこの世に存在しないことを。安全とか平和とか、見慣れた風景の中にも危険は隠れているし、悪魔は仮面を被って平気で歩いている。
正社員になることが出来て、その翌年、私は札幌市の郊外に住まいを購入した。誰かと会えば「こんにちは」と挨拶をする。どこの地方にもある普通の住宅街だ。
しかし、妻は信じていない。普通であるとか安全であるとかなんて信用していない。いや、妻は信用したくてもできないのだ。妻の心の傷は、信用という言葉を受け付けない。
妻は私にいつもこう言う「あと二㎝あれば百六十㎝なのに」と。二㎝なんてある意味誤差の範囲のような気がするが、百五十八と百六十。この二㎝の差は、妻にとっては異民族が乗り越えようとして乗り越えることができず、恨めし気に見上げた万里の長城と同じなのだ。どうやら身長を気にするのは男だけでないようだ。
自慢話で申し訳ないが、妻の体形は中学の時からさほど変わっていない。身長が数cm、体重も数㎏増えたくらいだ。髪型も中学時代から変わらないショートボブ。二十を越えたあたりから黒髪がアッシュブラウンに変わったが、当時(中学時代)の写真と今を見比べても容姿の変化は全くない。
困ったことに、妻は童顔だ。どう困るかと言うと、例えば娘を連れて三人で買い物に行く。三人でやって来た私たちを店員が見る。すると、店員が私に向ける目の中に戸惑いを感じるのだ。「まさかこの男性、ご主人じゃないわよね。じゃあ、娘と孫を連れてきたおじいちゃん? にしては若すぎるわ。どういう関係なのこの三人」こんな感じの目。まぁ、そう言う目には慣れたし、私としてはそれを楽しむ余裕もできてきた。今では十九年下の妻が私の自慢だ。
妻は体型を維持するために何か特別なことをしているわけではない。小食でもなければ大食いでもない。ジムに通ったこともないし、何か習い事をしているわけでもない。
妻は家を空けることがほとんどなかった。どうしてそうだったのか? 妻の告白を聞いて家を空けない理由がわかった。娘を守る。どんなことをしても守る。そういう決意のようなものがあったのだろう。
妻は知っている。絶対に安全な場所などこの世に存在しないことを。安全とか平和とか、見慣れた風景の中にも危険は隠れているし、悪魔は仮面を被って平気で歩いている。
正社員になることが出来て、その翌年、私は札幌市の郊外に住まいを購入した。誰かと会えば「こんにちは」と挨拶をする。どこの地方にもある普通の住宅街だ。
しかし、妻は信じていない。普通であるとか安全であるとかなんて信用していない。いや、妻は信用したくてもできないのだ。妻の心の傷は、信用という言葉を受け付けない。