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言葉に出来ない
第8章 YES-YES-YES〜美由
亮平さんが声を掛けてくれたのか、
お祖母様も同席してくれて、
ティールームで、本当に数年ぶりに元婚約者と対峙した。


全員、黙り込んでしまっていて、
何か、言わないといけないかしらと思っていたら、
お祖母様が口を開いた。


「高橋先生。
もうお会いすることはないと申し上げた筈ですが?」と、
キッパリとした口調で言う。


…そうだった。
高橋先生。
そうお呼びしていて、
下のお名前は…やっぱり思い出せなかった。



「申し訳ありません。
いつか、直接、お詫びをと思ってました。
ご結婚されると人伝に聴いたので、
お祝いの言葉をと…」と、
本当にすまなそうな顔をして言う。


私の記憶の中の高橋先生は、
自信たっぷりで、
声が大きくて、
少し威圧的な感じだったから、
随分と印象が違っていた。



「あの…。
亡くなったと伺っていたので、
驚きました」と言うと、
高橋先生の方が驚いた顔をした。


お祖母様が、

「事故に遭って、
もう二度と会うことはない。
そう言っただけだけど、
亡くなったなんて言ってないわよ?」と、
明るい声で笑うので、
私は拍子抜けしてしまった。


「あの頃の私は、どうかしてました。
婚約はしたけど、
周りには優秀で、
まだ美由さんの婿の座を狙う輩が沢山いて。
どうにかして、
自分の立場を絶対的にしたくて。
本当に酷いことを…」と言って、
「申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げて、
肩を震わせていた。


「あの事故で、大学病院にも居られなくなって、
田舎に帰って親の小さな病院を継いだんです。
自業自得だと思ってます。
もう、会うことはないです。
どうぞお幸せに…」と言って、立ち上がった。


「もちろん、幸せになります。
あの時、カールが喉を食い破らなくて良かった。
先生もどうぞ、お元気で…」と、
なんとか声を絞り出して言ったけど、
やっぱり身体は震えてしまっていた。



亮平さんは、カフェの出口まで高橋先生を送って行って、
何かを話したらしかったけど、
何を話したかは教えてくれなかった。



あの時の怖さは忘れられなかったけど、
なんとなく、気持ちに区切りが出来て、
その点は良かったと、心から思えた。
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