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言葉に出来ない
第1章 突然の出会いは進展もなし〜亮平
翌日はいつもより早く目が覚めてしまった。

習慣のジョギングを、昨日と同じコースにしてみて、
軽く流すように走る。

公園とかで、
犬の散歩をしている彼女と遭遇…

なんていう偶然は勿論起こらず、
そのまま帰宅してシャワーを浴びた。


そして、クリーニングから戻った綺麗にプレスされたオックスフォード地のブルーのシャツとグレーのパンツを履いて、
ついでに濃紺のジャケットを手に車に飛び乗った。

思ったよりギリギリの時間になってて、少し焦る。


ロッカーにジャケットを掛けながら、
どうせ白衣を羽織るんだから、
ジャケット、要らなかったな…と笑ってしまう。


いきなり、ICUに行くのも変だし、
時間もなかったので、
自分の外来用の診察室に裏のドアから滑り込む。


パソコンを起動して、
最初の患者のカルテを呼び出して、
ザッと目を通してから番号案内のボタンを押す。


看護師も番号を声に出して読み上げると、
少しヨタヨタしながら家族に連れられた老人が部屋に入ってきた。


そこからは、いつもと同じ診察で、
次々にやってくる患者を診たり、
CTやMRIの検査に回したり、
血液検査の指示を出したりしてたら、
あっという間に1時近くになって、
ようやく午前の予約の外来患者の診察が終わった。


食堂に行って、適当な飯を食って、
念入りに歯磨きしてから、
今度は入院患者の部屋を回っていく時間だけど、
その前にICUに回る。


そしたら、彼女が静かに祖母のベッドの横に椅子を置いて座っていた。



「あら、高木先生…?」と、
ベテランの看護師に声を掛けられると、
その声に反応した彼女がゆっくり立ち上がって、俺に頭を下げて挨拶をしてくれた。
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