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言葉に出来ない
第1章 突然の出会いは進展もなし〜亮平
「顔色も少し良くなってきましたね?
ちょっと失礼しますよ?」
と言って、
彼女の祖母の脈を取ったり、
眼球の様子を確認したりする。

看護師のメモが書かれたファイルもチェックする。


片手の麻痺と言うのも、
さほど気にならず、
しっかり握り返してくれるし、
脚の方もきちんと反応してくれる。

受け答えもしっかり出来て、
呂律が回らないというのもないようだった。


「頭の腫れがもう少し引いたところで、
もう一度精密検査して、
問題ないようでしたら退院出来ますよ。
あ、その後も、定期的に検診はさせてください」と言うと、
彼女はホッとしたようで、
柔らかい笑顔を見せてくれる。


「あ…。
甘いもの、好き…ですよね?
出張で…えっと、その…。
貰い物の和菓子があるけど、
食べて貰えますか?
消費期限、短いみたいで…」と小さい声で言ってみた。

「あら!
でしたら、看護師の方とかに…」

「いや。
数が少なくて喧嘩になるし、
たくさん入ったお菓子は土産に渡したから」と言い訳みたいに言った。

「では、ぐるっと回診終わられたら、
もう一度寄っていただけますか?
お茶、ご用意しておきますから…」と笑いながら言ってくれた。


ファイルとかと重ねて持っていた地味な箱を渡すと、

「まあ!
あんぷさんきらですね?
懐かしい!」
と言った。


美味しいことは知ってたけど、
その和菓子の名前を意識したことがなくて、
何かの呪文みたいな名前を繰り返してみた。

「あんぷさんきら?」


彼女は嬉しそうな顔で頷いていた。



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