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言葉に出来ない
第1章 突然の出会いは進展もなし〜亮平
症状と検査から引き出される病状を淡々と説明する。
少しICUで様子を見てから、
普通の病室に移動することを伝えるが、
黙ったままで、話を聴いているのか途中で少し不安になり、
言葉を止める。

カルテの辺りをぼんやり見つめていた彼女は、

「ドイツ語でカルテ、書かれるんですね?」と、
呟くように言った。


「えっ?」と言うと、

「最近は、英語や日本語で書かれる先生が多いかなと思って。
或いは、パソコンで、
選択すると該当する候補の文字が並んじゃうような…。
あ。
申し訳ありません。
動転しちゃって、文字を読んでたら落ち着くような気がしたので…」と言って、
俺の顔を見て、微笑もうとしていた。


「あ…いや…。
お母様…ではないですね?」

そんな訳はない。
患者の年齢からすると、
孫とかなんだろうと、
しょうもないことを訊いたもんだと思う。


「祖母です」と言うと、
また、涙が溢れてしまう。

小さい鞄から、
キチンとアイロンが掛けられた白いハンカチを出して、
涙をそっと拭う。

フワリと柔らかい花の香りがするように思えた。

やっぱり、抱き締めたくなるくらい、
可憐だと思ってしまう。



「ICU、この時間はご家族、入れないけど、
少しだけなら、入って様子を見ますか?
まだ、意識ないけど。
その後、入院の手続きとか、面会時間は、
看護師に訊いてください」と、
わざとぶっきらぼうに言った。


俺が立ち上がると、
彼女は慌てて立ち上がって、
「ありがとうございます」と頭を下げた。



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