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言葉に出来ない
第1章 突然の出会いは進展もなし〜亮平
「あの…小川さん?」
と呼び掛けてみると、
彼女は俺の方をぼんやり見た。


「バスの時間とか知らなくて…。
もしかして、まだ、シャトルバス、
動いてないんじゃないかな?
良かったら最寄駅まで送りますよ?」と言った。


彼女は俺の顔を暫く見つめてから、

「ああ…。
先生だったんですね?
白衣じゃないから、気が付かなくて…」と少し戸惑った顔で言った。


手を伸ばして助手席のドアを開けると、
彼女はベンチから立ち上がって、

「でも先生に送って頂くなんて、
申し訳ないわ?」と言った。


「どうせ通り道だから」
と言うと、
彼女は少しだけ考えてから、

「ありがとうございます」と言って、
静かに車に乗り込んだ。



フワリと、柔らかい花の香りがして、
俺の病院臭い匂いがなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。


病院のスタッフに見られるのも嫌だから、
すぐに車を出した。


彼女は無口で、
きっちりと膝の上に置いた小さなバッグの上に手を重ねるように置いて真っ直ぐ前を観ていた。


あまりに静かで、
FMでも掛けようかと思ってたら、
俺のお腹が空腹を訴えるように音を立ててしまった。

沈黙の後、
彼女は少しだけ声を上げて笑った。

なんていうか、鈴みたいに軽やかな声で、
とても可愛かったけど、
俺は思いっきり恥ずかしくなってしまう。



「あ…。
ごめんなさい。
難しいお顔してる処しか、観てなかったので…。
一晩中、ICUにいらしたんですものね?
お夜食も召し上がる時間、
なかったんですよね?」


今時の若い女の子の割に、
物凄く綺麗な言葉遣いをするんだなと感心したのに、
俺はぶっきらぼうに、

「ええ、まぁ…」と言った。


「そういえば私も、少しお腹、空きました。
良かったら、朝食、ご一緒しませんか?
あ…。
先生は、奥様、お待ちになってますよね?
失礼しました」


「誰も居ませんよ?
牛丼でも喰って帰ろうかと思ってたくらいで…」


「牛丼?」


「本当は、パンケーキとか、
甘いヤツが食べたいけど、
独りだとなんか、恥ずかしいから…」


「だったら、ご一緒します?」


「…じゃあ、付き合って貰おうかな?
この時間だと、ファミレスしかないかな?」


それで、国道に出てファミレスを探しながら車を走らせることになった。


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