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言葉に出来ない
第4章 愛を止めないで〜美由
婚約者の名前は、頭の中から消去してしまって、
顔も覚えていなかった。
でも、あの日、無理矢理掴まれた指の力の強さや、
触れられてあまりの気持ちの悪さに鳥肌が立った感覚、
近づいた口元から立ち上るアルコールの匂い、
唾液に塗れて紅い痕をつけられた自分の胸元、
千切られてまとわりついていたレースの下着は、
今でも時折、私の心に舞い降りては苦しめた。
父の同僚の教授の紹介だった。
ちょうど、祖父が体調を崩してして、
「曾孫が見たい」と気弱に言っていたこともあって、
優しそうな眼鏡をしたその男性と何度かデートをして、
婚約することになった。
デートと言っても、
私に合わせて、コンサートホールに行ったり、
きちんとしたお店で食事をする程度だったけど、
とても優しくて穏やかで、
いつも車で送り迎えをしてくれた。
ある日のこと。
家族で出掛ける予定だったのに、
私は熱を出してしまって、留守番をすることになった。
祖父も自室で伏せっていて、
荒井さんはご実家の用事で不在だった。
呼び鈴が鳴ったけど、
誰も出る人が居なくて、ヨロヨロと立ち上がってインターホンを見ると、
その婚約者が立っていた。
「あの…?」
と言うと、
「美由さん、発熱してると聴いたから。
お見舞いに参りました」と、
お花を持っているようだった。
門扉を開けて、車ごと中に入って貰うと、
お花とプリンを持って玄関のドアをノックしてくれた。
「これを…」と渡されたけど、
それを持っていることも出来なくてフラフラと倒れそうになる。
慌てて私を支えてお花と有名店の紙袋に入ったプリンの箱を玄関に置くと、
私を抱き上げて、
「部屋はどちら?」と訊かれた。
「お二階です」と言うと、
そのまま、奥の階段を登って行って、
「どのドア?」と言われて、指差すと、
私の部屋に入って、
奥のベッドに私を横たわらせた。
顔も覚えていなかった。
でも、あの日、無理矢理掴まれた指の力の強さや、
触れられてあまりの気持ちの悪さに鳥肌が立った感覚、
近づいた口元から立ち上るアルコールの匂い、
唾液に塗れて紅い痕をつけられた自分の胸元、
千切られてまとわりついていたレースの下着は、
今でも時折、私の心に舞い降りては苦しめた。
父の同僚の教授の紹介だった。
ちょうど、祖父が体調を崩してして、
「曾孫が見たい」と気弱に言っていたこともあって、
優しそうな眼鏡をしたその男性と何度かデートをして、
婚約することになった。
デートと言っても、
私に合わせて、コンサートホールに行ったり、
きちんとしたお店で食事をする程度だったけど、
とても優しくて穏やかで、
いつも車で送り迎えをしてくれた。
ある日のこと。
家族で出掛ける予定だったのに、
私は熱を出してしまって、留守番をすることになった。
祖父も自室で伏せっていて、
荒井さんはご実家の用事で不在だった。
呼び鈴が鳴ったけど、
誰も出る人が居なくて、ヨロヨロと立ち上がってインターホンを見ると、
その婚約者が立っていた。
「あの…?」
と言うと、
「美由さん、発熱してると聴いたから。
お見舞いに参りました」と、
お花を持っているようだった。
門扉を開けて、車ごと中に入って貰うと、
お花とプリンを持って玄関のドアをノックしてくれた。
「これを…」と渡されたけど、
それを持っていることも出来なくてフラフラと倒れそうになる。
慌てて私を支えてお花と有名店の紙袋に入ったプリンの箱を玄関に置くと、
私を抱き上げて、
「部屋はどちら?」と訊かれた。
「お二階です」と言うと、
そのまま、奥の階段を登って行って、
「どのドア?」と言われて、指差すと、
私の部屋に入って、
奥のベッドに私を横たわらせた。