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言葉に出来ない
第4章 愛を止めないで〜美由
「怖かっただろう?
すぐに気がつかなくて済まなかったね。
おやおや、勇敢に闘ったものだね?
どれどれ。
そっちはガラスの破片があるから、
私の寝室においで?
片付けは誰かに頼めば良い」と言って、
震える私の手を引いて、
一番奥の寝室に連れていってくれた。


「ココアとか、淹れられるといいんだけど、
ちょっと難しいからね。
ほら、ここにおいで?
久し振りに絵本を読んであげよう」と、
とても古いピーターラビットの絵本を、
優雅なイギリス訛りの英語で読んでくれた。


「美由ちゃんは優しいな。
あんなヤツ、喉笛、食いちぎられても文句言えないだろうに!」と言われて、

「そんなことしたら、
カールが乱暴な犬として、
殺処分になったりします」と涙目で言った。


「そうなっても、
カールは姫様を守れるなら、
本望なんだよ?
私も身体が動くなら、
あのステッキで殴り殺したいくらいだったよ」と、
優しい笑顔で言った。



私は懐かしい絵本と古い樹木のようなお祖父様の香水の香りに包まれて、
安心した気持ちで眠った。


両親たちが帰宅した時は、
多分、お薬のせいで目が覚めなくて、
翌日もうとうとと、お祖母様のベッドをお借りして眠り続けてしまった。


私が眠っている間に、
荒井さん達が私の部屋の片付けと模様替えをしてくれていた。


そして、婚約者が私たちの前に姿を現すことは、
二度となかった。


あの夜の帰りに、
高速で事故に遭って「亡くなった」と聴いた。

飲酒運転でスピードの出し過ぎだったそうだ。


確かに私の処に来た時も、
アルコール臭かった。


でも、そんな話をする機会も特にはなかった。

お見舞いの花とお菓子を置いて、
すぐに立ち去ったからと説明したようだったし、
事故に遭った車には、
女性も同乗していたという話だった。

その女性は、お金で一緒に過ごすような方と聴いた。



どうして、あの夜、
婚約者が豹変したのかも、
その後、何で見知らぬ女性と一緒に事故死したのかも判らなかったけど、
こうして私の婚約時代は終わり、
その後、暫くは家を出ることもせず、
ひっそりと暮らすようになっていた。

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