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言葉に出来ない
第1章 突然の出会いは進展もなし〜亮平
彼女の2倍ほどの大きさのハンバーグを、
あっという間に平らげてふと見たら、
彼女はまだ、半分も食べ終わってなかった。


「あの…、ごめんなさい。
私、食べるのが遅くて…」と急ごうとしているみたいだったから、

「ゆっくり食べて?
俺、仕事柄、早食いだし。
甘いヤツ、おかわりしてるからさ」と言ってみた。


ようやく食べ終わって、

「私もそれ、飲んでみようかしら?」と言って、

「わっ。
美味しいですね?」と嬉しそうに笑っては凍った苺をストローで崩そうとしているのがなんだか子供みたいで可愛かった。


「あっ!
そうだ。
先生、お伺いしたいことがあります」と、
姿勢を正すように俺を観るから、
ちょっと緊張してしまって、

「えっ?
なんですか?」と言うと、


「とても失礼なんですけど…。
お名前、教えていただけますか?
病院では動転していて、
胸にネームプレート、付いていたと思うのに、
どうしても思い出せなくて…」と本当に済まなそうに言った。


「じゃあ、こっちも訊いても良いかな?
患者さんの名前は『小川真由子さん』で89歳、血液型O型ってことは知ってるけど、
君の名前、判らなくてさ。
『小川さん』って呼んだけど、
孫って言ってたから、名字も違うかもしれないなって思って。
名前、教えてくれる?」と言ってみた。



「やだ。
二人して、名前も知らないのに、
朝食ご一緒してたんですね?」と言いながら、
楽しそうにクスクス笑うと、
小さなバッグから名刺入れを出して渡してくれた。


「小川美由と申します。
この度は祖母がお世話になりまして、
感謝申し上げます」と言った。


名刺には、

atelier μ(アトリエ・ミュー)という屋号のようなものと、
小川美由という名前が日本語と英語で書かれていて、
その下に住所と携帯電話、メールアドレスも書かれていた。


アトリエって何だろう?
と思いながら、

「あ。
名刺、今、持ってなくて。
車の中にあるかな?
高木です。
高木亮平。
専門は、脳外科だよ」と言った。


「やっとお名前で呼べます。
ずっと、なんてお呼びすれば良いか判らなくて、
悩んでました」と言うので、

「こっちもだよ?」と答えると、
二人で可笑しくなって笑ってしまった。




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