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言葉に出来ない
第5章 Yes-No〜亮平
懐かしいような、
甘酸っぱくような気持ちを、
少しほろ苦いお抹茶で流し込みながら、
俺はハッキリ思い出した。


少し蒸し暑い梅雨の走りの土曜日。
京都から横浜に移り住んで、
ばあちゃん達と暮らし始めて3ヶ月。

グラウンドの工事が何かで部活が休みで、
ばあちゃんの茶室で甘いモノでも貰おうかと、
行儀悪く立ったまま、障子を開けたら、
小柄な女の子が正座して茶を点てていた。


「まあ。
なんてお行儀悪いこと!
こちらにお座りなさい?」と言われて、
ばあちゃんとその友達らしきオバチャンの隣、
一番下座に胡座を掻くと、

「ちゃんと、正座して?」と更に言われて、
首をすくめて正座をし直した。


その女の子はあまりにも小さいから、
小学校低学年に見えたけど、
お点前はスムーズで、
自分で点てたお茶を、上座から出しては戻り、
次のお茶を点てて、
終わった茶碗を回収しては清めて、
またお茶を点ててをなんなく繰り返して、
俺の前にもそっとお茶を出してくれた。


俺はこんな小さいコにお辞儀をするのがなんだか恥ずかしくて、
ぶっきらぼうに片手で茶碗を掴んでそのまま飲もうとすると、


「ほら。
ちゃんとご挨拶返して!
お茶碗は回して?」とばあちゃんに怒られると、
女の子は少し恥ずかしそうに笑った。


あの時の、小さいコが、
美由ちゃんだったのか?


色々なことが頭をグルグル駆け巡って、
頭が沸騰しそうになる。



「あのさ。
ばあちゃんのトコに、
お茶、習いに来てたの、
美由ちゃんだったの?」


「えっ?」


「俺、胡座したら怒られてさ。
美由ちゃんがお茶、点ててくれた…」


「まあ!
やっと思い出したの?
わたくし、すぐに気づいたわよ?
ねえ?
百合子様?」と、
美由ちゃんのお祖母様がクスクス笑う。


「私も…忘れてました。
あの時のお兄様だったの?
凄く大きくて、
ちょっと怖かったの。
それなのに、綺麗な水羊羹、
美味しそうに3切れも食べて、
びっくりしたの」と美由ちゃんが笑う。


そして、
「だから、亮平さんとお話しても、
あんまり緊張しなくて、
大丈夫だったんですね?」


「俺も、一目惚れとか、
しないと思ってたのに、
会った瞬間に気になって…。
ずっと前に会ってたんだな」と言うと、
色々、腑に落ちたように感じた。
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