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唐草の微睡み
第9章 月夜の晩に
「美しいな。」

「ほんとに!とっても綺麗!」


2人は言葉も忘れて月に魅いっていた。


風がそよ草木が揺れる音、虫の音、蛙の声…すべてが心地よく耳に入ってくる。
草木も虫も蛙も…何もかもが月の美しさのためだけに音を出しているようだ。

亭の前には大きな池があり、青白い月が映り込んでいる。
池の周りの木々も、月の光に照らされてくっきりとした大きな影を水面に落とし込み、まるで池の向こうにも、もうひとつ世界があるようだ。


いつの間にか花凛は龍星に肩を抱かれ、龍星の大きな胸に身体を預けていた。

龍星に肩を抱かれた時、花凛は自然に身体が動き、そのまま身体を預けてしまった。
龍星も花凛の肩を抱いたのは、殆ど無意識だった。


花凛も龍星も不思議な感覚に囚われていた。

まるで、自分達はもう何年も前から夫婦で、こうやってずっと一緒に月を眺めてきたような気がする…。
そんな感覚だった。


突然龍星が静に話し出した。

「花凛、そのままで聞いてくれ。」
身体を起こそうとする花凛を制止する。

「俺は皇帝だ。これからも、いつもお前をこうやって抱いてやれない。
俺は、今この瞬間ほど、自分が皇帝じゃ無かったらどんなに良かっただろうと思ったことは無い。
いつもこうして気兼ねなく、お前と幸せな時間を過ごせたら、どんなに良いか…。
最初で最後だ。今日だけ…。
今日だけは、皇帝龍星ではなくて、ただの龍星としてお前と朝まで過ごしたい。
花凛。お前もただの花凛になってくれるか?」

「龍星…。もちろん…。」

龍星の思いが花凛にも伝染して、きゅっと龍星の胸に顔を埋めながら答えた花凛の声は少し湿ってした。


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