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唐草の微睡み
第2章 その夜に
宰相は先代の皇帝から支えている有力な家臣だったが、黒い噂の絶えない男だった。


「さて、花凛様。明日は早いので、今夜はゆっくりお休み下さい。では、失礼させていただきます。」


そう言って、香明はお辞儀をして、部屋の扉に手をかけた。
その瞬間、香明が押してもいないのに、勢い良く扉が開き、部屋の中に数人の男どもが乱入してきた。

勢い余って、少し前につんのめってしまった香明は、羽交い締めにされて、口を縛られてしまった。


「騒ぐな!」
首領らしき男が剣で脅しながら近づいてきた。

「騒ぐとこいつを殺す。」
羽交い締めにされている香明に、別の男が剣を突きつける。

「分かったわ。騒がない。騒がないから、その女官を放しなさい。」


花凛は叫びたいほど恐ろしかったが、香明の命がかかっている。
ここは、下手なことはできない。


「ふっふっふっ。さすが花凛様だ。」

「私の名前を知ってる?ただの盗賊の類いでは無いようね。」

「その通り。では、ご聡明な花凛様は、我々の目的が分かるかな?これが分からなければ、女官は放せないな。ふっふっふっ、お前のことだよ。」


「私のことでここに??まっ、まさか?!」

「お前、龍星の妃になるんだってな。それで、あるお方が大変ご立腹だ。」

「わ…私を殺すの?」
花凛の顔は青ざめて、唇が震えている。


「まさか!殺しはしないさ。お前だって、一応皇帝一族の一員だ。そんなことはしねーよ。」

「じゃ……何を?!」
花凛は、ゴクリと唾を飲み込む。
何とか平静にいようとしているが、身体が小刻みに震えている。


「んー!なんて言うと良いんだ??あれだな。皇帝の妃には相応しくない身体にするんだよ。すばり言うと、今から俺たちでお前を拐って犯すんだ。」

「なっ?!」

言葉を失う花凛に、
「おっと!泣いたり喚いたりするなよ。この女殺しちまうからな!」

香明は花凛が小さい頃から側にいて世話をしてくれた。
子供の頃、悪戯をしては母のように叱ってくれたし、怖い夢を見たと泣けば眠るまで抱きしめていてくれた。
両親のいなかった花凛に、香明は親の変わりをしてくれた。
そんな香明を、死なせるわけにはいかない。

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