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あの海の果てまでも
第5章 秋桜の涙 〜暁礼也のモノローグ〜
「縣男爵様。
恐れ入りますが、こちらで少々お待ちくださいませ。
ただ今、奥様にお伝えいたします」

大客間に通されたのち、大紋家の家令・白戸に恭しく告げられた。

…その家令は絢子の生家…西坊城子爵家から輿入れの際に絢子に伴って大紋家に入った。
元々は西坊城家に住まう帝大生の書生で、絢子の家庭教師や護衛の仕事をしたり、子爵の秘書的役割もしていたそうだが、絢子が輿入れするにあたり、自ら大紋家に仕えることを志願しやってきたという忠義者であった。

大紋家は由緒正しい家柄で富豪ではあるが、貴族ではない。
広大な屋敷や大勢いる使用人たちをまとめる者は何十年来勤めてきた家政婦だった。
子爵令嬢として深窓に育った絢子の世話をするのに、やはり家政婦だけでは行き届かないだろうと、大紋も受け入れを承諾した。
そこで白戸は、それまで男性の執事的役職を置かなかった大紋家にとって初の家令となったのだ。

かつては礼也もよく大紋家を訪れていたので、このまだ若い家令とは度々言葉を交わしていた。
地味ながら理知的で端正な貌立ちと、すらりとした容姿を持つ彼は、大層寡黙ではあったが、温かく礼儀に叶ったもてなしを常に礼也に与えてくれた。
…何より絢子に対し、この上ない敬意を払い、熱心すぎるとも言える忠誠心を捧げているのが見て取れた。

…けれど、今日は彼のその声や表情の端々からぎこちない硬さと微かに非難めいたものを感じる。

…無理もない。
礼也は思う。
…私は彼の大切な女主人のプライドも体面も…そして何より愛する夫を奪った憎い相手の兄なのだから。

「ありがとう。白戸。
突然伺ってすまない。
大変な無礼を許してくれ。
…けれど、こうでもしないと絢子さんは私に会ってくださらないと思ってね」
誠実に詫びると、家令は感情を堪えたように形の良い唇を引き結び、
「私のようなものに、過分なお気遣いは無用です。
縣男爵様」
低く告げ、恭しいお辞儀を残して静かに部屋を辞した。

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