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あの海の果てまでも
第5章 秋桜の涙 〜暁礼也のモノローグ〜
「おやめ下さい。
礼也様ともあろうお方が、私に跪かれるなんて…。
このようなことをなさってはいけません。
お立ちになられてください」
絢子は身を縮めて固辞する。

「いいえ。絢子さん。
土下座しても足りないくらいです。
貴女の心の傷を思えば…」

「…礼也様…」
清らかな瞳は、微かに潤み始めていた。
絢子は傍らで固唾を飲んでいる家令に告げる。
「白戸。
下がって良いわ」

白戸が眼を見張る。
「絢子様…!ですが…!」
「私は大丈夫よ。
私、縣男爵様とふたりきりでお話がしたいの」

白戸は心配そうに眉を寄せる。
そうして、礼也を見遣る。
…まるで、か弱い姫君を憎い敵から護るような騎士の眼差しだ。
「…分かりました。
くれぐれもご無理をなさいませんように…。
何がございましたら直ぐに私をお呼びくださいませ」

…後ほど、温かいミルクとお茶を運ばせます。
絢子の肩のショールを丁寧に掛け直し、忠実で献身的な…些か常軌を逸しているほどの…家令は大客間を後にしたのだ。


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