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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
観客たちで混み合う柵を迂回し、春馬は騎乗のまま二人の目の前に現れた。

「お兄様ったらもう!残念!
あと少しだったのに!」
悔しげに地団駄を踏む雪子を朗らかに笑う。

「やっぱり練習不足だな。
最近なかなか馬場に行けなかったからね。
…まあ、いいさ。
ドイツ大使に花を持たせたし…ね」

優勝したのは、在ドイツ大使らしい。
今は大勢の西洋人たちに囲まれ、上機嫌な様子だ。

「上手いこと仰って。
そうよ、お兄様。最近、馬術練習をサボり気味だもの。
なかなかお家にお帰りにならないし。
お遊びが過ぎるんじゃなくて?」
「やれやれ。手厳しい妹だ」
軽くいなしながら、穏やかな眼差しを隣で固まっている絢子に向ける。

「雪子のご学友ですか?」

話しかけられ、思わず身を縮める。
「…は、はい…あの…」
…それ以上、言葉が出ない。
心臓が止まりそうなほどの緊張感に包まれる。

「西坊城絢子様よ。
私の一番の仲の良いお友達」
雪子が代わって紹介をしてくれた。

春馬がひらりと馬上から降りる。
…男は降りても尚、背が高い。
小柄な絢子が見上げないと視線が合わないほどだ。
ふわりと漂う薫りは、外国製のトワレだろうか。
森林のような爽やかな薫りは、この凛々しく理知的な男によく似合っていた。

「初めまして。絢子さん。
雪子の兄の大紋春馬です。
妹がいつもお世話になっております。
…お転婆な妹のお相手にご苦労されていませんか?
全く、やんちゃで跳ねっ返りで、家族も手を焼いておりますよ」
冗談めかしに言いながら絢子の緊張を解こうとするように微笑みかけてくれる。

「…いいえ…そんな…」
…碌な返答も出来ない自分が情けない。
けれど、無理もない。
絢子は今まで異性の若い男性と口を聞いたことはなかったのだ。
親戚の青年や屋敷に仕える書生や下僕には気軽に話せるのに…と激しく落ち込む。

「あら!酷いお兄様。
そんなこと、ないわよねえ。
私、学校ではちゃんとやっているわよね?ねえ、絢子さん」

絢子は必死に頷く。
「は、はい。
雪子様はご立派に級長を務めていらっしゃいます。
お賢くて朗らかでお優しくて…私、本当に感謝しています」

返答を聴いた春馬は、眼を細めた。

「それは良かった。
絢子さん。
貴女のようにお淑やかなご学友がいらして安心しました。
これからも仲良くしてやって下さいね」






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