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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…こちらこそ…あの…」
胸が一杯になり、ぎこちなく眼を伏せた。

…どうしよう…何か、お話した方が良いかしら。
けれど、何も言葉が出てこない。

絢子は小さな頃から母や乳母の影に隠れて生きてきた。
快活で社交的な姉達は常にお茶会やパーティーの中心にいた。
絢子はいくら乳母に促されてもその中に入ることはできなかった。

『西坊城様の末のお嬢様は大人しくてはにかみ屋さんでいらっしゃるのね』
『華やかで派手やかな姉様方とは似ておられないわね』
そう噂されていることも知っていた。
美人で華やかで明朗で機知に富んだ会話が出来る姉達と、いつも比べられてきたからだ。

…お母様は
『絢子さんはそれで良いのよ。
貴女はまだネンネさんなのだから』
と、庇って下さるけれど…。

優しい母に甘やかされ、自分から初対面のひとに話しかけたりすることが皆無だった。
だから、こんな時に押し黙ることしかできないのだ…。

そんな自分が情けなく、涙が出そうになる。
絢子は春馬の視線から避けるように力なく俯く。

…その刹那、強い風が吹き、絢子の髪に緩く結われていた菫色のリボンが魔法のように解かれ、そのまま風に奪われてしまった。
リボンは強風とともに空中に舞い上がってしまった。

「…あ…!」

「大変!絢子さんのリボンが」
雪子が叫ぶ。

慌てて見上げるものの、絹のリボンは鳥の羽のように軽いので、瞬く間に近くの楓の樹の枝に絡まってしまった。






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