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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…更衣室で着替えて、泥を落としてまいります。
お先にカフェにいらしてください。
…雪子、絢子さんをお連れしなさい。
僕の名前を言えばすぐに通してもらえるから」

再び愛馬に跨がり、早速と馬場を駆けてゆく春馬の後ろ姿をうっとりと見送る。

「…絢子さん、お兄様に一目惚れなさった?」
背後から抱きつかれながら、耳元で囁かれる。

「え?
い、いいえ。そんな…」
慌てて首を振る絢子に、ひらひらと雪子は手を振る。
「よいのよいの。
分かっているわ。
お兄様に会われた女性はみんなそう。
貴女みたいな反応をするのよ。
うっとりと夢を見ているみたいな表情をなさるわ」

絢子は不意に不安に襲われる。
「…そんなに…あの…人気があられるの…?」
「モテモテよ。
縁談なんてここ数年、降るようにどころか凄まじい量があるし。
お茶会や夜会の招待状も週末に山のように届くの。
…でもねえ…。
お兄様、ご結婚されるおつもりは全くないみたい」
柵にもたれながら、さらりと髪を掻き上げる。
そんな淑女にしてはやや行儀のよろしくない仕草も闊達な美少女の雪子がすると魅力的に見えるから不思議だ。
近くを通る若い青年も雪子に熱い視線を投げかけるほどだ。

「そうなの?」
雪子の言葉に、少しほっとする。
「全くよ。
お母様もいい加減お断りするのに困られているわ」

…どうやらねえ…。

内緒話をするように、雪子はふいに声を密めた。

「お兄様、お好きな方がいらっしゃるみたいなの。
…それもかなり訳ありな…ね」



 


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