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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
絢子はどきりとする。
「…え…?」

雪子はう〜んと唸りながら首を捻る。
「恋人…なのかなあ。
お兄様は聞いても何も仰らないけれどね。
とにかく凄く夢中になっている方はいらっしゃるみたい」

風船が萎むように心が萎み、落胆する自分を感じる。
「…そう…なの…」
…仕方がないわ。
あんなに素敵な方ですもの。
お好きな方はいらっしゃるはずだわ。
そう自分に言い聞かせる。

「でもね、生涯結婚はしないとはっきり仰るのよ。
おかしいでしょう?
そんなに愛している方ならまず第一にプロポーズなさると思うのよね」
「…そうね…」
…確かにふしぎではある。

「私が考えるに、恐らくお相手はお兄様とご結婚出来ない方なのよ」
「…ご結婚出来ない方…?」
不思議そうにする絢子の耳元に、雪子が再び囁く。
「…道ならぬ恋よ。
人妻か…あるいは訳ありな未亡人」
「まあ…!」
絢子は驚き、思わず口を押さえる。
そんなことがあるだろうか。
あの清潔そうな春馬様が不倫の恋…?

「お兄様がプロポーズなさらないお相手なんてそれくらいしか思い当たらないもの。
でもね、そんな人目を憚る恋なんていつまでしていても仕方ないでしょ?
お兄様もそろそろ諦めるべきなのよ。
…かと言って、お見合いでご結婚されるのはねえ…。
ちらりとお見合い写真や釣書を覗いたけれど…なんだか高慢ちきな貴族の御令嬢や成金の資産家令嬢ばかりなの。
全然魅力的な方はいらっしゃらないのよね。
あんなお相手ではお兄様はきっと今の恋を諦められないと思うのよ」

…だからねえ…
と、雪子は絢子の肩を抱く。
そうして、しみじみとした優しい声で告げた。

「私、絢子さんにお兄様のお嫁様になっていただきたいの」


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