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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「ええっ⁈」
絢子は激しく驚いた。
雪子はにっこりと微笑み、絢子の髪を優しく撫でる。
「私、絢子さんが好きなのよ。
絢子さんはとってもお淑やかで素直なお可愛い方だわ。
私とは正反対だけれど、だからご一緒にいて落ち着くの。
貴族のお嬢様なのにちっとも偉そうになさらないし、誰にでもお優しいし。
きっとお兄様の理想的なお嫁様になられると思うの」

「…そんな…私なんか…」

女学校では皆んなに人気の雪子に大層褒められ、嬉しいけれど、一足飛びに春馬の妻にと請われ、絢子は恥ずかしさの余り俯いてしまう。

そんな絢子の手を、雪子が握り締める。
雪子の瞳は闊達で理知的な光に煌めき、春馬のそれに良く似ていた。

「ね、絢子さん。
私たちが姉妹になったら素敵だと思わない?
同じお家に住んでずっと一緒にいられて、ずっと仲良く楽しく過ごせるのよ?」

「…ええ…それはもちろん…」
…そんな夢のように幸せなことがありえるのだろうか…。

大紋春馬のように素晴らしい男性に求婚され結婚し、親友の雪子と姉妹になる…。

絢子は貴族の娘として、いずれ姉たちのように家柄や財力だけの縁談話が持ち上がり、そう嫌な相手でなければ結婚しなくてはならないことを充分に理解していた。
だから、恋愛結婚など夢のまた夢だと諦めていた。

…けれど、春馬様に出逢ってしまった…。
この苦しくも甘く切ない想いは、もう決して消せないことを絢子は気付いてしまった。

そんな絢子の心の内を見透しているかのように、雪子は絢子の白い手を強く握り締め、はっきりと告げた。


「絢子さん。
お兄様のお嫁様になって。
私、色々と協力するわ」



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