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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「さあ、そろそろお開きにしようか。
絢子さんのお家の方がご心配なさるといけない」
春馬がロレックスの腕時計を見た瞬間、雪子が今思いついたように口を開いた。

「あ、そうだわ。
私、馬房に寄ってアイシスに会ってくるわ。
しばらく会ってなかったから。
…お兄様、絢子さんを車でお屋敷までお送りして差し上げてよ。
お兄様、ご自分の車でいらしたでしょ?
私は屋敷の車で帰るから」

絢子はぎょっとして貌を上げる。
「い、いいえ。そんな訳には…。
私はタクシーを呼んでいただければ自分で帰りますわ」

春馬はさして驚いた様子もなく、雪子の額をつつきわざと睨むように見遣る。
「全くお前は本当にわがままだな。
わざわざここまで絢子さんに付き合っていただいて、何を言っているんだ」
「だって、お兄様を見ていたら私の馬に乗りたくなったんだもの。
アイシスと夜駆けは久しぶりだし。
絢子さんを夜遅くまでお引き止めする訳にはいかないし。
ね?お兄様?」
「当たり前だ。
絢子さんはお前と違って深窓のご令嬢だぞ?
西坊城子爵に叱られる」

「いいえ、私は大丈夫ですわ」
固辞する絢子に春馬はおおらかに微笑んだ。
「わがままな妹のお詫びにお屋敷までお送りいたしますよ。
…車を回してまいります。
少々お待ちを」
そう爽やかに言い置くと、颯爽とした足取りでカフェを後にしたのだった。

「…お兄様と二人きりね。
絢子さん、頑張って。
ホテル・カザマの夜会は舞踏会よ。
お兄様にワルツの予約をなさると良いわ」

振り返ると雪子が確信的な笑みを浮かべ、ウィンクをして見せたのだ。


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