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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「お屋敷は麹町でしたね。
どうぞ、お足元にお気をつけください」
スマートに車のドアを開け、春馬は絢子をエスコートした。
「は、はい」
緊張しながら、助手席に座る。

車の助手席に乗るのは初めてだ。
家の車では後部座席にしか座ったことはない。
いつも両親と乗るものだったし、送迎の時は年配の昔から仕えている運転手とだ。
絢子の親戚や知人で自らハンドルを握る男性はいなかった。
紳士は運転手付きの車に乗るもの…と思っていた。

絢子は男と二人で車に乗ったことも、狭い空間で二人きりになったこともない。
緊張のあまり冷たくなってきた両手を握りしめていると、運転席にしなやかに春馬が乗り込んできた。
ふわりと森の奥深く立ち篭める薄荷のようなトワレが薫る。

「子爵令嬢の絢子さんを載せるには軽薄な車かな。
…先日英国から届いたばかりの新型のアストンマーチンです。
私はいわゆる車道楽の男でしてね。
自分で運転したいんですよ。
安全運転で参りますのでどうかご勘弁を」
冗談混じりの言葉に、絢子は小さく首を振る。
「…いいえ…。こちらこそお手数お掛けいたします…」

思ったより、運転席の春馬との距離が近い。
男の体温が伝わりそうなほどに…。
絢子は自分の鼓動が春馬に聴こえてしまわないか、心配な余りぎゅっと身を縮めた。





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