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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
…車は滑らかに西坊城邸の大理石の車寄せに滑り込んだ。
ほどなくして正面玄関の扉が開かれ、中から白い絣の着物に紺袴姿の若い青年が現れた。
…出迎えに出たのは書生の白戸だ。
絢子の帰宅時は必ず彼が現れる。

父の秘書見習いをしながら帝大に通い、絢子の家庭教師も勤める彼は、絢子の帰りが少しでも遅くなると大層心配するのだ。

…今も初めて見たであろう運転席に座る春馬と…なぜか助手席に居る絢子を信じられないような驚愕の眼差しで見つめている。

「…ご立派なお屋敷ですね。
お父上は大変趣味がお宜しくていらっしゃる」

春馬が車窓越しに興味深気に屋敷の外観を見上げる。

…イタリア様式を取り入れた八角の塔、三角屋根など、古典主義建築の中にモダンを組み合わせた屋敷は、父がわざわざイタリア人の建築家に設計を依頼したものだ。

「ありがとうございます。
…あの…」
綸子縮緬の袂をぎゅっと握りしめる。
絢子は清水の舞台から飛び降りるような決意で口を開いた。

「…春馬様。
今夜、私の家で晩餐をご一緒していただけないでしょうか?」






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