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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…絢子さん?」
驚いたように春馬が眼を見張る。

…言ってしまった…と、全身を羞恥が襲う。
いつもの絢子なら、ここで撤回しただろう。
けれど、今日は違った。
胸に溜まった言葉は、次から次へと口唇から溢れ出す。

「…このあと、春馬様にお約束があるのは承知しております。
けれど…あの…母にお送りいただいたことを報告しなければなりませんし…そうしたらきっと母は晩餐にお誘いなさいと申すでしょうし…。
…あの…もしよろしければ、お約束の方を我が家にお招きしても良いですし…」
…そうだ。
春馬様の恋しい方を招いても良いのだわ。
春馬様と一緒にいられるなら、何でも良いのだ。

…これ以上、紡ぐ言葉を無くした絢子は、はっと我に返る。
途端に激しい後悔が絢子を襲う。

やはり、常識はずれなとんでもないことを言い出してしまった。

春馬様は、どんなに呆れておられるだろうか…。

俯く絢子の頭上から、優しい声が降り注ぐ。

「嬉しいお誘いをありがとうございます。
…けれど、今日はご遠慮しておきましょう」

…ああ。それはそうだ。
こんな無作法なお誘いはないもの…。

項垂れる絢子に、朗らかな声は続いて掛けられた。

「…絢子さん。
ぜひ、我が家に遊びにいらして下さい」
恐る恐る見上げる春馬の理知的な瞳は温かく笑っていた。

「両親も喜びます。
あんな跳ねっ返りのお転婆娘に、絢子さんのように淑やかな大和撫子のお嬢さんがお友達になってくださったと胸を撫で下ろすでしょう。
私も大歓迎いたします」

男の温かい思い遣りの言葉に、涙が溢れそうになる。

「…はい…。
ありがとうございます…」 
小さな声で礼を言うのが精一杯だった。

「我が家の庭にはテニスコートがありましてね。
絢子さん、テニスはなさいますか?
いらしたらぜひ、ご一緒いたしましょう」

春馬は秋の光を帯びた風のように爽やかに笑ったのだった。



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