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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「え?」
「お出かけになった時、このような形ではありませんでした」
不審げな切長の瞳がきらりと光っていた。

「…ああ…」
絢子は恥ずかしそうに微笑んだ。

「リボンが解けてしまって、結い直していただいたの。
…春馬様に…」
小さな声で付け加えたのに、白戸はすぐ様に表情を変えた。

「大紋様が⁈お嬢様のお髪に触れられたのですか?
外で未婚の貴族のご令嬢のお髪に触れられるなど、あまりに非常識すぎる行為です。
大紋様は何を考えておられるのか…」

白戸の酷く厳しい言葉に絢子は思わず微笑む。
「大袈裟だわ。その場に雪子様もいらしたのよ。
私が不器用で結うのが苦手で、雪子様も得意ではなかったの。
それで、春馬様がやってくださったのよ」

男に髪を結われていた手の感触を、夢のように思い出す。
…大きく器用な手だった。
思い返すだけで、身体が熱くなる。

「…ポニーテール…という髪型なんですって。
欧米て流行っていると春馬様は仰っていたわ…」
夢見心地で呟く絢子に、白戸が切なげに答えた。

「…良くお似合いです…。
…とてもお綺麗です…」

絢子は瞳を輝かせた。
「そう?ありがとう。
嬉しいわ」

…春馬様もそう思って下さっていたらいいな…。
絢子は願うように思う。

やがてあることをはっと思い出し、白戸の前に向き直る。
「ねえ、白戸。
ホテルカザマから夜会の招待状は来ていたかしら?」

「…ホテルカザマでございますか?
はい。
もちろん届いておりますが…」

絢子は瞳を輝かせる。
「良かった!
ご返事はまだよね?
白戸、お母様はいらっしゃる?」
そう言いながら、玄関へと走り出す。

普段、淑やかな絢子に似合わぬ活発な行動に、白戸は眼を見張りながら、俊敏に重厚な扉を開く。

「お待ち下さい。お嬢様。
お駆けになると危のうございます!
お嬢様!」
小走りに玄関ホールを横切る絢子を慌てて追うのだった。






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