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あの海の果てまでも
第6章 秋桜の涙 〜絢子の告白〜
「…まあ…絢子さん…」
方子は愛娘の羞じらうような…それでいて高揚したような表情を見て、すぐさま悟った。

…ああ、絢子さんは、大紋様に恋をしたのだわ。

普段は大人しく喜怒哀楽の表情すらも控えめで、若い娘なのに華やいだところのない絢子が、今は匂いやかな生き生きとした煌めく春のような雰囲気を漂わせている。

そんな絢子は、母親の方子から見てもとても綺麗であった。

…私にも覚えがあるわ…。

方子はふと遠い昔の記憶を甦らせた。

かつて、初恋だった若き海軍士官のそのひとを…。

たまたま乗り合わせた省線の中で具合が悪くなった女学生の方子を急遽次の駅で下ろし、手厚く介抱してくれた精悍な士官がいた。
…すらりとした長身、日に焼けた男らしい風貌、優しい眼差しは今も胸に焼き付いている。

若い二人はすぐさま恋に堕ちた。
…けれど、海軍士官とはいえ、平民の商家出身だったその青年と、西坊城子爵家の跡取り娘の結婚が許されるわけはなかった。

二人は泣く泣く別れさせられた。
やがて方子は西坊城家の遠縁に当たる青年・黒田大吾を婿養子の形で迎え、結婚をした。
すべては家督のための結婚であった。



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